まさに「将棋は万芸に通ず」大西藤男さんが語る将棋の魅力とは?

「人生100年時代」。
そう言われはじめてどれくらい経ったでしょうか。
定年退職され、次のステップへ進む人がいるいっぽう、人生の大半を担っていた「仕事」がぽっかりと抜け落ち、何をしたらいいのかわからないという人も、少なからずいらっしゃいます。

大西藤男さんは、日本将棋連盟亀城支部の支部長として活躍されています。

生徒さんへの指導や成長を通じて、将棋をどのように「生きがい」とされているのか。
将棋の魅力とあわせてお話を伺いました。

日本将棋連盟亀城支部の活動について

―本日はよろしくお願いします。さっそくですが、日本将棋連盟亀城支部について教えてください。

日本将棋連盟が開催する将棋教室のひとつで、亀城支部はふたつの教室に分かれています。
幼稚園から小学6年生まで、将棋を楽しく学んでもらうための「かめさん子供将棋教室」。
中学生から一般の方が対象の、将棋の伝統文化や最新のAIの情報を楽しく伝え、親睦をはかる「亀城将棋クラブ」です。

―初心者が大人対象の亀城将棋クラブに入会しても大丈夫ですか?

もちろんです。初心者で将棋を始めたいという方もいらっしゃいますし、女性の方もおられます。年配の将棋を覚えたいという方もいらっしゃいますよ。
将棋をはじめるのに老若男女は関係ありません。

―すこし調べてみましたが、5~6歳からはじめたらいいという意見があります。大西さんは何歳から始めるのがいいと思われますか?

もっと早い年齢でも大丈夫だと思います。
かめさん子供将棋教室は幼稚園から小学6年生まで一緒に将棋を指しています。年下の子が年上の子に勝つこともありますよ。

―本当ですか。年齢は関係ないのですね。

そうです。早く好きになって覚えた人が強くなる。年齢は関係ないから将棋は面白いです。
かめさん子供将棋教室で小学6年生までいっしょに将棋を指すでしょう。そうすると学年関係なく、みんなが将棋盤のうえでライバルです。
追い付き追い越せでどんどん強くなっていきます。すごいですよ、子供たちは。

―兄弟で習いに来るイメージがありますが、よくスポーツ選手で聞くような「兄を越える弟」は将棋でもいらっしゃいますか?

兄弟で習いにくる子は多いですが、「兄を越える弟」のようなケースはあまりありませんね。兄がやはり強いです。
兄にしろ弟にしろ、まずは負けず嫌いが大切です。
藤井聡太さんも負けず嫌いで有名ですよね。
彼が小学3年生の時、全国大会の決勝戦で負けたことがありました。悔しくて大泣きしたそうです。
実はその相手が、のちに藤井さんからタイトルを奪う伊藤匠さんでした。

―将棋が強くなるには、負けず嫌いのほかに何が必要ですか?

他に必要なものは集中力と記憶力です。それに応用。
たとえば、今はAIを応用してプロ棋士は勉強しています。
藤井聡太さんもそうです。
ただ彼は自作でパソコン作り、それを使って研究していますから。
他のプロの方も、パソコンと将棋ソフトを購入して一生懸命研究していますが、他の人は自作できないから限界があります。だから藤井さんに勝てないのでしょう。

―以前NHKの番組『クローズアップ現代』で藤井聡太さんの特集を放送していましたが、AIは藤井さんが96%負けるだろうと予想した対局がありました。
しかし藤井さんはわざと悪手を指し、相手のミスを誘って逆転勝利をおさめたことがありましたね。

それは藤井聡太さんの勝負師の勘ですね。人間特有の勘とも言えます。
AIはそういった勘でわざとミスしたのか、自然とミスをしたのか、まだ読み取れません。

―その対局は「AIを越えた」とも言われましたね。

AIを使い人間の認知機能について研究がおこなわれていますが、それに将棋が使われています。
将棋は相手のミスを突く勝負です。
ノーミスで指せば勝てますが非常に難しいですよね。
だから人間はいつミスをするのか、人間の認知機能を知るうえで将棋はうってつけなのです。
そういった研究は、ミスが命取りになる医療現場などに活用されようとしています。

―師匠に弟子入りして強くなるというイメージでしたが、今はそういったAIで強くなる時代なのですね。

昔は子弟関係が当たり前で、プロで弟子入りして勉強し、強くなっていくが「定跡」でしたが今は変わりました。
ネットを使えば弟子入りしなくても最新の棋譜が瞬時に手に入りますし、テレビなどで中継もしています。
弟子入りしなくても強くなれる、それが今の時代です。

将棋のさまざまな「繋がり」

―意外でした。

もちろんいいことだけではありません。
ネットで将棋を指す対面で指した時に感じる、勝ったうれしさや、負けた悔しさを感じなくなると聞きます。

将棋クラブであれば、人と指す醍醐味を感じられますね。

昨今問題になっている「パソコン依存」「ゲーム依存」などありますよね。
欲求を抑えられず、一度やり始めると自分でとめられなくなる。
ところが人と顔を合わせて将棋を指す場合、相手がいるので絶対にとまります。
パソコンやゲームの場合、ひとりで成立してしまうので依存する可能性が高いです。

―確かに、おっしゃる通りです。

だからわたしは、将棋を通して正しく指導していければと思っています。
今は小学生がタブレットを持ち、あらゆるコンテンツにアクセスできる時代ですけど、子供は良し悪しの線引きがまだできません。それを教えるのがわたしたち大人の役目です。

―先ほどのお話でも話題にあがりましたが、藤井聡太さんの活躍で将棋をはじめるお子様も多いのではないですか?

実は藤井聡太さんがデビューしたとき、すごい人数の方に来ていただきました。
しかしその2年後に新型コロナウイルスの大流行。
教室もかなり影響しましたね。
通常、城西コミュニティセンターで開催している講座室は50人なのですが、当時は60人も来てくださいました。
しかし新型コロナの感染拡大防止のため、50人のどころか半分にしてほしいと要請があり、時間をずらして開催したり席を離したり対策をとりました。
感染対策のためだったとはいえ、生徒のみなさんには窮屈な思いをさせてしまいました。

―大変でしたね。

今は徐々に回復はしてきております。引き続き藤井聡太さんの人気も追い風になっています。

―将棋からAI、医療現場まで色々繋がっていて本当に面白いですね。

将棋は古来から続いてきた「日本の伝統文化」ですが、実はいつ誕生し日本に伝わって来たのか、諸説ありますがよくわかっていません。
わたしの私見ですが、伝来は飛鳥時代。中国でいう隋の時代に、漢字や仏教などと一緒に将棋が伝わったと思われます。

最初は「見る将棋」として、当時の天皇が見るためのようでしたが、ここから日本独自の発展をしていきます。
平安時代以降から「大将棋」「中将棋」そして現在の本将棋のもととなる「子将棋」と増えていきました。

―さまざまなものが隋から伝わり、日本文化として発展していったのですね。

平安時代以降、どのような発展をしたのか。
それはお寺や神社が関係します。
昔は文字を読めない人がほとんどですが、お坊さんや神主なら読めました。
お経を読んだり、経典を書き写さないといけないですから。

―なるほど。同じ時期に伝来したであろう将棋と漢字は密接に関係していたのですね。

将棋の文化は漢字の文化とも言えるかもしれません。面白いですよね。
おそらくお坊さんや神主から、一般の人々へ将棋が広がったのでしょう。
時代が進むと、将棋が賭博となった時期もありました。
平安時代は俳句でも何でも賭け事にして遊んでいましたから。
ところが鎌倉時代には賭博の将棋が禁止に。
下級武士は仕事をしないし、破産する人も出てきたので幕府が禁止にしました。

―それだけ流行っていたということですか。

まず将棋そのものが面白いですからね。
そして戦国時代に再興しました。

―それは兵法の一環として?それとも賭博として再興したのでしょうか。

武士が公家とお付き合いをするためです。
当時、将棋や囲碁は重要な教養のひとつだったのです。

―接待ゴルフのようなイメージですか?

戦国時代から安土桃山時代にかけて、徳川家康や織田信長、豊臣秀吉など名だたる武将が愛好していましたから、文化として育まれた時代ですね。

将棋の面白さを伝えていきたい

―それから現代へ続いてきた将棋を、大西さんが興味をもったきっかけはなんでしょうか。

縁台将棋はご存知ですか?
わたしの子供の頃はまだクーラーもない時代でした。
近所の人があつまり、縁台を出してうちわをあおぎながらすいかを食べていたり、そこでお年寄りが将棋を面白そうに指していました。
小学生だったわたしはそれを見ながら覚えたのがきっかけです。

―環境だったのですね。

昔は縁台で近所の人たちとコミュニケーションとる機会が多かったですから。
将棋はそのコミュニケーションの一環でした。
ところで対局時計はご存知ですか?

―テレビ放送の対局でよく見る時計ですか?

そうです。実はわたしが縁台将棋で嫌な気持ちになったことがあります。
それは時間制限がないことでした。
将棋とはいえ、大人は子供に負けたくないですよね。小学生に50や60歳のいい大人が負けたら悔しいですよ。ではどうするか。
暗くなって親が呼びに来るまで勝負を長引かせます。子供が帰れば負けになりませんから。

―牛歩戦術みたいですね。

それが嫌になって、少し将棋がきらいになった時もありました。
その時は当然、対局時計はありませんでしたから。

―そんなことされたら確かにきらいになるかも。

そうです。真剣にするのであれば、やはり時間制限がないと公平に指せません。
それで今は、かめさん子供将棋教室のような小さな子供のクラスでも、対局時計を取り入れています。
そうすることで本格的な将棋の面白さを伝えていけたらと思っています。

―将棋は長い歴史のなかで賭博の対象となったり、お付き合いの手段として用いられたりと、形や用途を変え現代まで連綿と続いてきました。
そして今も人間の認知機能の研究に使われ、医療の分野にも活かされようとしています。これから将棋が進化するとしたら、大西さんはどうなると思いますか?

これからはエンターテインメントの分野に発展していくと思います。
プロ野球や日本代表のサッカーの試合と同じように「する人と見る人」が分かれるでしょうね。
昔はプロの対局を簡単に見られませんでした。
ところが今はテレビやインターネットで気軽に見られるようになりましたよね。しかも誰が見ても面白いようにつくられています。

―われわれ素人でもわかるように解説してくれますよね。

そうです。ひと目で勝率がわかるようにAIで評価値も出してくれますよね。その評価値が面白さを膨らませています。

―まさにエンターテインメント的でとても面白いです。ドラマチックな逆転も、評価値が出るのでルールを知らない人でも感動できます。

感動しますよね。「あっ今ミスった!」とひと目でわかります。

―しかし対局後の感想戦だけは、個人的に負けた人はつらいように見えます。勝った人をまえにして、負けた対局について話し合うわけですから。

感想戦というのはふたつの意味があります。
ひとつは「反省」です。同じ間違いをしないように反省しなければ強くなりません。
もうひとつは、「相手の気持ちを聞く」ことです。
将棋とは対話です。
名局もひとりでは生まれません。ふたりではじめて生まれるのです。

―1人で名局は生まれない、ドラマチックですね。AIがどこまで進化しても、やはり人と人ですね。

ひとりではできないというのは、なにも対局だけに限ったことではありません。
親や指導者、地域の人々など、環境が整ってはじめて将棋ができます。
まわりの人たちに感謝することは大切ですね。

―本日は貴重なお話をありがとうございました。最後に将棋に関心のある方へメッセージをお願いします。

将棋は老若男女だれでもできます。しかしひとりではできません。
わたしといっしょに、生徒たちの成長を見届ける指導者の仲間を募集しています。
将棋を知らないのに指導者なんて、という方もイチからご指導いたしますのでご安心ください。
興味のある方はぜひ気軽にお声かけください。

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