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丸亀駅から6分ほど歩いたところに、古い建物をていねいに改装した小さなカフェ「Em Coffee」があります。カウンターに立つのは、店主のゆゆさんです。
善通寺市に生まれ、18歳でふるさとを出て、京都、大阪、東京、そしてフランス、カナダ、オーストラリアへ。世界のあちこちで暮らし、カナダとオーストラリアではバリスタとして働いてきました。
そんなゆゆさんが、お店を開く場所に選んだのが、この丸亀でした。しかも今は、海外と香川を行き来する「二拠点生活」も考えているのだとか。
一貫しているのは、「たのしく暮らしたい」という気持ち。
あるものに合わせて生きるのではなく、自分の暮らしを自分の手で創っていく。そんなゆゆさんの目に、丸亀はどんなまちとして映っているのでしょうか。お店にお邪魔して、じっくりお話をうかがいました。
18歳、好きなものを追いかけて香川を出た
—ゆゆさんは善通寺のご出身だそうですね。18歳で香川を出たきっかけは、何だったんですか?
「デザインとか絵が好きだったんです。京都に専門学校を見つけて、思い立ってすぐ引っ越しました。まわりは個性的な人ばかりで、いろいろ感化されて(笑)。そのあと大阪、東京と移り住んで、今度は音楽にどっぷりはまりました。お客さんが5人くらいしかいないような、小さなライブハウスに通いつめて。好きなものが、どんどんアンダーグラウンドになっていったんです。」

—そこから、どうして海外へ?
「好きだったバンドの人たちが、海外で活動するようになったんです。『見に行きたい』と思って、はじめてひとりで海外に行きました。カナダとフランスです。英語もフランス語も、ぜんぜんわからないままで(笑)。」
言葉がわからなくても、世界は広がった
—言葉がわからないのに、怖くなかったですか?
「フランスの人たちが、すごく優しかったんです。『自分の気持ちをちゃんと伝えたい。フランス語を勉強しよう』と思いました。そのときはじめて、ワーキングホリデーという制度があることを知って、まずフランスへ。旅行には困らないくらいのフランス語は身についたんですけど、そこで気づいたんですよね。フランス語だけ話せても、アメリカにもカナダにも行けない、って。それで今度は英語を勉強しようと、カナダとオーストラリアに行きました。」
言葉ができないから行かない、のではなく、伝えたい気持ちがあるから、言葉を覚えに行く。ゆゆさんの順番は、そうなのです。
実は、コーヒーが苦手だった
—意外だったんですが、もともとコーヒーは苦手だったそうですね。
「そうなんです。コーヒーって、かっこいいじゃないですか。興味はあるし、飲みたい。でも、おいしいと思えなくて。飲むとしても、甘いラテばかりでした。」
—それが、飲めるようになったきっかけは?
「一時期、東京の築地でアルバイトをしていたことがあって。職場の近くに、すごく人気のコーヒー屋さんがあると教えてもらったんです。モカとか、塩キャラメルとか、季節のアレンジドリンクがあって、それなら飲めた。『おいしいな』って。そこからラテが好きになりました。ラテアートも、かわいいじゃないですか。」
カナダでは、最初は日本食のお店で働いていたそうですが、「私はここで何をやってるんだろう?」と思い立ち、がんばってカフェの仕事へ。ただ、カナダのカフェは深煎りのコーヒーが中心で、まだお砂糖を入れて飲んでいたといいます。ブラックコーヒーは、あいかわらず苦手なまま。

オーストラリアで、世界がひっくり返った
—転機は、オーストラリアだったんですね。
「オーストラリアに行ったら、街のカフェがほとんど全部、浅煎りのお店だったんです。豆の個性を味わって確かめる『カッピング』という文化もあって、衝撃でした。メルボルンにマーケットレーン(Market Lane Coffee)という有名なお店があるんですけど、そこのブラジルのコーヒーがすごく飲みやすくて、フルーティーで。『おいしい……私、ブラックが飲める!』って。そこからカフェでも、ちゃんとブラックを頼めるようになりました。」
—浅煎りのコーヒーって、ふだん飲むコーヒーと何がちがうんですか?
「コーヒーって、もともとはコーヒーチェリーという果物の種なんです。だから本来は、フルーティーで酸味があるもの。深く焙煎すると苦味が出て、その酸味が隠れるんですね。最近は農家さんの技術がどんどん上がって、輸送もよくなって、新鮮でおいしい豆が日本にも届くようになりました。深く焼かなくても、フルーティーさを生かせるようになったんです。エチオピアの豆は華やかでフルーティー、コスタリカはもうすこし落ちついた味、というふうに、産地によって個性もぜんぜん違うんですよ。」
苦手だった人だからこそ、「飲めなかった気持ち」がわかる。
ゆゆさんの説明はていねいで優しくて、コーヒーにくわしくない人にも、すっと入ってきます。

帰ってきた香川で、丸亀を選んだ理由
—帰国して、お店の場所に丸亀を選んだのはどうしてですか?
「この建物、もともと祖父母の倉庫と車庫だったんです。それがたまたま、丸亀駅の近くにあって。古い建物を改装して、お店にしました。」
—善通寺で生まれ育ったゆゆさんから見て、丸亀はどんなまちですか?
「丸亀はお城があって、港があって、人の流れがあるまちですよね。善通寺は農業とお寺のまちで、人のマインドも少し違う気がします。丸亀には、新しいものを受け入れる空気があるというか。
それに、スペシャルティコーヒーのお店って、丸亀にはまだまだ少ないんです。あっても、車で行くお店が多くて。だから、駅から歩いて来られる場所でお店ができるのは、可能性しかないなと(笑)。」
世界のカフェ文化を知る人が、「ここにはまだ余地がある」と選んだまち、丸亀。
おじいちゃんとおばあちゃんが残してくれた建物が、世界とまちをつなぐ場所に生まれ変わりました。

週休3日で、たのしく、ゆるく
—これから、やってみたいことはありますか?
「焙煎機を入れて、自分でブレンドを焼いてみたいんです。うまくいったら、豆の販売も。それから、海外と香川を行き来する、二拠点の暮らしも考えています。」
—お店は週休3日なんですね。
「はい。無理をして続かなくなるより、たのしく続けたいので。仲間とたのしく、ゆるくつながりながら、スペシャルティコーヒーのおいしさを、丸亀から伝えていきたいんです。ファンを増やしたい。コーヒーが苦手な人にも、好きになってもらえるかもしれない。だって、私がそうだったから。」
たのしく暮らしたい、が叶うまちで

「たのしく暮らしたい」。
ゆゆさんのお話を聞いていると、それはただの願いごとではなく、自分の暮らしを自分の手で創っていく、という意志を感じます。
ことばがわからなくても海外へ行く。
苦手だったコーヒーを、仕事にしてしまう。
働き方も、住む場所も、自分で決める。
18歳で香川を出て、世界をぐるりとまわって、たどりついたのは、丸亀駅から歩いて6分の祖父母の古い倉庫でした。
やってみたいことがある人を、ゆるやかに受け入れてくれるまち、丸亀。
あなたの「たのしく暮らしたい」も、このまちでなら叶うかもしれません。
まずは一杯、フルーティーなコーヒーを飲みに、Em Coffeeをたずねてみてください。

Em Coffee (エムコーヒー)
住所: 香川県丸亀市葭町(かやまち)77-1
アクセス:丸亀駅北口から沿線沿いに徒歩6分
営業時間:金・土・日 9:00〜14:30 / 月 12:00〜18:30
定休日: 火・水・木
駐車場: 店舗横(南側)に2台あり
備考: テイクアウトもできます
Em Coffeeの店舗情報については、こちらもご覧ください。

