大病を乗り越えて言葉と格闘するー『月刊マルータ』編集ディレクター大林朋子さん

『月刊マルータ』の皆さんとともに、大林朋子さん(写真右から2人目)

執筆者:しろねこ

『月刊マルータ』は丸亀市と宇多津町という香川県の限られたエリアで発行されている生活情報誌です。

2015年の創刊以来、地域に密着した特集記事と、グルメや美容、健康まで身近で役に立つ情報を毎月無料で届けてくれています。

その『月刊マルータ』に創刊当初から携わり、現在は編集の責任者をされている大林朋子さんは、2021年に突然脳内出血で倒れるという壮絶な経験をしました。

この記事では大林さんが病気になってからお仕事に復帰するまでのお話を伺いました。

編集の仕事を始めたきっかけ

今ではベテラン編集者の大林さんですが、意外にも「ライターの仕事を始めたのは偶然でした」とのこと。

当時、子育てをしながら複数のアルバイトを掛け持ちしていた大林さんは、仕事を一本に絞りたいと思っていました。

そこでハローワークを通じて紹介された、創刊準備中の『月刊マルータ』に入社します。

大林さん(以下敬称略)「ライターという仕事を特に意識していたわけではありませんでしたが、本が好きでジャンルを問わず広く読んでいたので、文章を書く仕事をやってみたいと思いました」

しかし、当初の業務は営業をしてお店や企業の広告をとることでした。広告主に取材をし、情報をまとめてから初めて原稿にできるのです。

大林「コミュ障なので営業はハードルが高かったですが、克服しようと!また、少人数で情報誌を立ち上げることが大変なことはわかってしていましたが、何も考えずに飛び込もうと思いました」

設計図を引くように文章を構成する

自分なりの文章の書き方を模索する中で、大林さんが習得した方法はとてもオリジナルです。

大林「取材で話を聞いた中からポイントを決め、使える部分を抜き出して、それを入れ替えて文章を作ります。」

何だかパズルや模型を作っているようなイメージですが?

大林「過去の職歴の中でも『CAD』という製図をするソフトウェアを使って建築の設計をするのがすごく楽しくて好きだったのです。ライターというと文系の職業のようですが、私は理系の頭なんです。」

設計図を引くように文章をつくる、なるほど納得です。この空間を把握する能力は、紙面のレイアウトを決め、デザイナーに指示を出すときにも役立っているといいます。

突然の脳内出血と失語症

入社6年目のある日、突然の病が大林さんを襲います。

異変に気付きCT検査を受けると、500円玉大くらいの脳内出血が見つかり、即手術をうけることに。幸い処置が早かったので、手足のマヒは残りませんでした。

脳のレントゲン写真(大林さんから提供)
脳のレントゲン写真(大林さんから提供)、軽くはない、中程度の脳出血。
出血している場所は「言語野ど真ん中」と主治医に説明を受けた

しかし、「文章や人の話が理解できない」、「言葉が出てこない」という症状が残り、失語症と診断されます。リハビリテーションセンターに転院した当初は一分間で動物の名前を一つも言うことができなかったそうです。

言葉を武器に仕事をしてきた編集者が言葉を奪われることが、どれほど辛いかということは、我々が想像する以上でしょう。

しかし、大林さんは全力でリハビリに取り組みます。

大林「くよくよしないでリハビリに集中することにしました。決まった日程以外に先生に宿題を出してもらい、入院中はテレビを見る暇もありませんでした」

大林さんは何かを始めたら常に本気で打ち込み、むしろやりすぎてしまうといいます。その性格のおかげで、あきらめる人も多いというリハビリを乗り越え、倒れてから二か月という驚異的な速さで仕事に復帰しました。

大林さんの闘病記「【完結】スタッフ体験談・ともが脳内出血になってから」は『月刊マルータ』のホームーページで読むことができます。

障害が残る中での仕事復帰

仕事に復帰してからも言葉と格闘する日々が続きます。

大林「例えば『所属』という言葉がでない、その言葉を探すために似た言葉を検索し、やっと言いたい言葉にたどり着く、それが一文、一文のことなのです。500字の文章を書くのが大変な苦労でした」

言葉が出ないことのストレスが繰り返され、半年から一年たったころ、文章を書く能力はかなり回復してきたそうです。

大林今思えば、当時は必死でした

今では撮影や校正、情報整理やレイアウトという編集の仕事はできるようになりました。しかし、取材には一人では行かないといいます。

大林「私にはキャッチしたい音が聞き取れないのです。言葉がぽろぽろこぼれてしまう。特に難しい話を早口で言われると理解することができないので、サポート役が必要です」

病気の後で変わったこと

病気の後では大林さんの書く文章表現にも変化がありました。

大林「失語症のせいで難しいことは書かなくなり、文章がシンプルになりました。それがかえってわかりやすいと評価されるようになりました。それはよかったかな」

その言葉の裏には、「病気さえなければ」という口惜しさもあると思います。しかし、大林さんは常にご自身を俯瞰して、熱い思いとクールな視点を合わせ持つ方だという印象を受けました。

これからも「生きた言葉」を届けてほしい

大林さんは実は絵を描くことが一番好きなのだそうです。

大林「絵を描き始めると好きすぎて止まらないから封印しています。絵を再開するなら仕事を引退してからかな?」

しかし、私は大林さんが闘病記のコラムに添えたイラストを見て、絵が言葉を補ってくれることもあるのではないかと感じました。

大林さんの闘病記は『月刊マルータ』の多くの読者が自分の健康を顧みるきっかけになったと思います。

それはご自身の経験から紡ぎだす大林さんの「生きた言葉」が我々の心に強く響いたからです。

2005年9月号からは大林さんと同じ障害を持つ方を支援する施設のコラムも始まりました。

大林さんにお会いしてから『月刊マルータ』の記事の言葉を一つ一つ意識して読むようになりました。

これからもその言葉が、すぐに役立つ情報とともに、地域や自身の生活について考える機会を提供し、いつも暮らしの傍にいてくれることを願っています。

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