「次はいつ来てくれるのっ!?」
ボードゲームの体験会が終わる頃、子どもたちの名残惜しそうな声が響きます。

ボードゲームを囲めば初対面の子どもどうしが打ち解け合い、画面の中だけでは得られないリアルなつながりと笑顔の輪が広がります。
そんな素敵な時間を地域の子どもたちに届けているのが、丸亀市を拠点に活動する市民団体「さぬきファミリーゲーム倶楽部」。
会長を務める林賢治さんにインタビューして、ご自身の活動やボードゲームの魅力について伺いました。

林賢治さん
ボードゲームの楽しさを伝える市民団体「さぬきファミリーゲーム倶楽部」の会長をつとめる。
本業は「パン・焼き菓子工房らぼ」という、実店舗を持たないパン屋の職人。
実家は桃農家で桃の生産を手伝ったりジャムの製造も行っている。
ボードゲームは最高のコミュニケーションツールである
「ボードゲームは最高のコミュニケーションツールだと思います」
そう語る林さん自身、実は人と話したりコミュニケーションをとるのが得意ではなかったそうです。
初対面の人と会話をしようとしても、相手の趣味や性格がわからなければ共通の話題を見つけるのは難しいもの。
ましてや、もともと会話が苦手な人にとっては、話すこと自体が大きなプレッシャーになってしまうこともあります。
けれども、ボードゲームがあれば状況が変わります。
カードを出す。
サイコロを振る。
その何気ない行為が自然な会話のきっかけとなり、相手との距離をぐっと縮めてくれるのです。

ゲームそのものが楽しいことは言うまでもありません。
それに加えて、一緒にゲームを遊ぶ中で相手の意外な一面に気づいたり、思わず笑い合えたりする時間をとおして、人を知る楽しさが生まれるのも、ボードゲームの大きな魅力なのだと林さんは語ります。
子どもたちにリアルなつながりを持つ喜びを伝えたい
林さんが特に力を入れているのが、子どもたちがボードゲームを体験できる場づくりです。

「今の子どもたちはオンラインのコミュニケーションには慣れ親しんでいるけれど、リアルに顔を合わせて遊ぶ経験は意外と少ないんです」と語ります。
学童や地域のイベントで行う体験会では、初めて会った子ども同士であってもボードゲームを通してあっという間に打ち解け、笑顔が広がっていきます。
普段は口数の少ない子がゲームのルールを説明したり、チームを引っ張ったりする姿に出会えるのも、林さんにとって大きな喜びです。
「カードを配ったりサイコロを振ったりするだけで、自然に会話が生まれる。子どもたちには、そんなリアルなつながりを体感してほしいんです」

夏の猛暑で外遊びが難しい時期には、学童保育からボードゲーム体験会の依頼が増えます。
ときには200人を超える子どもたちを相手にすることもあり、子どもたちのエネルギーに圧倒される場面もある一方、一緒にゲームで遊ぶ時間を楽しんでいるといいます。
「自分が提案したボードゲームが子どもたちの心をガッチリつかんだときは、本当にうれしいですね」

林さんの言葉からは、単なる遊びを紹介するだけではなく、子どもたちに人と人が直接つながる楽しさや喜びを伝えたいという強い思いが伝わってきました。
ボードゲーム制作で地域貢献
林さんの活動はボードゲームを「遊ぶ側」から「作る側」へも展開していきます。
ボードゲームが好きな人の中には、自分でもゲームを作りたいという想いを持っている人も多いそうで、林さんもそのひとり。
2020年、地域に何か貢献したいという気持ちと、ボードゲームを作りたいという想いが合わさって、地元である丸亀市をテーマにしたボードゲームの制作にとりかかることになりました。
制作のアイデアを生み出すきっかけとなったのは、2018年に大雨で崩落した丸亀城の石垣修復工事のニュースです。

「地元丸亀のシンボルをテーマにしたゲームなら、地域の人にとっても親しみやすいし、子どもたちに地元をもっと好きになってもらえるのではないか?」
と考え、丸亀城の石垣修復工事をテーマにしたボードゲームの企画を丸亀市に持ち込んだそうです。
こうして誕生したのが、石垣を積み上げながらポイントを競うボードゲーム『ISHIGAKI〜丸亀城〜』です。

制作時期の2020年はコロナ禍の真っ只中。
小中学生に試作品を遊んでもらって改善を重ねる予定だったものの、思うようにテストプレイができず苦労も多かったといいます。
それでも地元の歴史や文化をゲームを通して伝えたいという熱意が実を結び、1年におよぶ制作期間を経て商品化を実現しました。
完成したゲームは丸亀市内の学校に設置され、丸亀市のふるさと納税の返礼品としても人気を集めました(売切で返礼品は終了しています)。
林さんは「ただゲームとして遊ぶだけじゃなく、丸亀のことを深く知るきっかけにもなればうれしい」と語ります。
これからの展望
林さんの思いは、地域の子どもたちに笑顔を届けることにとどまりません。
「ボードゲームの楽しさを、もっと多くの人に知ってほしい」と語り、活動の幅をさらに広げたいと考えています。
現在は丸亀市を拠点に体験会を開いていますが、将来的には香川県内全域、さらには県外でも活動してみたいとのこと。
「呼んでいただける場所があれば、ぜひ足を運びたいですね。ボードゲームを通じて人と人が笑顔でつながる光景を、もっと広げていきたいんです」

また、新しいボードゲームの制作にも意欲的です。
『ISHIGAKI〜丸亀城〜』のように地域の文化を題材にした作品は、遊びながら歴史や街への理解を深められるのが魅力。

「第二弾もできれば挑戦したい」と、構想を膨らませています。
海外に目を向けると、ドイツではボードゲームが文化として根づき、世界的な賞も設けられています。
「丸亀から発信したゲームが賞をとったり、いずれは世界で遊ばれるようになれば最高ですね」と笑う林さんの姿からは、楽しい未来のイメージが伝わってきました。
地域から始まった小さな取り組みが、やがて世代や国境を越えて広がっていくかもしれません。

ボードゲームを通じてつながる輪は、これからも大きくなっていきそうです。
ボードゲーム体験会の開催依頼やイベント情報はさぬきファミリーゲーム倶楽部公式ホームページをご覧ください。

