【たびましこ】リライト

安心して本音を言える場所がほしい。

そんな願いから誕生したのが、香川県丸亀市を拠点に活動するプレイバックシアター劇団365です。

「プレイバックシアター劇団? なんで劇が本音を言える場所なの?」と、不思議に思われるかもしれません。

プレイバックシアターとは、観客の誰かが体験や日常の出来事を語り、それをその場で役者が即興劇として演じ返す手法です(後で詳しく説明しています)。

つまり自分が語ったストーリーが、その場で劇となって演じられる。

その過程に立ち会うことで「自分の声が受け止められた」という安心感が生まれ、語り手も観客も心を解きほぐされていきます。

本記事では、劇団365代表の欠田かけだ美奈子さんに、劇団を立ち上げたきっかけ、その魅力や今後の目標などを伺いました。

プレイバックシアターとは?

まずプレイバックシアターについて、欠田さんに説明していただきました。

欠田さん(以降敬称略):
プレイバックシアターとは、シンプルに言うと「観客と演者がいっしょに創り上げる即興劇」です。次のような3つの手順でおこなわれます。

  1. コンダクター(司会進行、話を聞き出す人)が、観客からテラー(自分の体験を語る人)を募集する
  2. その場でコンダクターがテラーにインタビューし、アクター(演者)や観客とストーリーを共有する
  3. そのインタビューにもとづいて、アクターたちが即興で劇にする

テラーが語る内容はなんでもいいんです。たとえば、日々の悩み、日常の些細なこと、過去の思い出などですね。

「劇にする」と聞くと、壮大なストーリーや、おもしろいネタがないとダメなように感じましたが、欠田さんの説明を聞いて安心しました。

なぜなら、目的は「おもしろい演劇を制作すること」でも「作品を評価すること」でもないからです。

プレイバックシアターに心が揺さぶられた体験

欠田さんがプレイバックシアターに出会ったのは、香川で開催された「劇団プレイバッカーズ」による公演でした。

欠田:
胸が熱くなり、目頭が熱くなる感覚でした。演技の技術というより、当事者の気持ちが立体的に伝わってくることに心を揺さぶられましたね。

特に印象に残ったのは、ある人が語った「子どものころ、夏の日におばあちゃんがうちわであおいでくれた」というエピソードだそうです。

欠田:
その劇を観たときに、自分の記憶の奥に眠っていた似た体験が呼び起こされ、強い共感が湧きあがったんです。あれはまさに「ドラマチックな事件でなくても、人の物語には力がある」と確信した瞬間でした。

観客として観に行くだけでなく、自らも語り手(テラー)として舞台で自分の体験を話したときにも衝撃を受けたそうです。

欠田:
私の話を劇として演じてもらった後、劇団員のみなさんが私の目を見て「大切なお話をお返しします」と敬意を示してくれたんです!

「この方たちは私のために全身全霊で話を聞いてくれたんだ。なんて贅沢な時間だったんだろう」と心を揺さぶられました。

確かに、日常で誰かがここまで真剣に耳を傾けてくれる経験はなかなかありません。

欠田:
私の語った体験が「かけがえのないもの」として扱われたことで、自己肯定感が大きく回復したのを感じましたね。そして、この体験が後に私自身が劇団を立ち上げる原動力になりました。

劇団を始めた原点は「産後の孤独体験」

欠田さんが劇団を始めた背景には、自身の産後の孤独体験がありました。

転勤族の夫と、離れた土地での子育て。夜泣きや家事の大変さよりも「本音を言える場所がない」ことが、なによりもつらかったそうです。

欠田:
夫や友人には言いづらいこと、言うまでもないと思ってしまう気持ちが積み重なり、心のコップが溢れそうになっていました。誰かに話せたらどれだけ楽だったか……と思います。

その孤独な体験が発端となり、お母さんたちが安心して本音を語れる場をつくりたいという想いを抱き始めたそうです。

そして、その想いが「プレイバックシアター」と出会ったときに見事につながりました。

欠田:
宗像佳代さん(スクール・オブ・プレイバックシアター日本校校長)からいただいた「当事者が当事者のためにおこなうのが一番届く」という言葉にも背中を押されました。

そして、欠田さんは同じ思いを持つ仲間とともにプレイバックシアター劇団365を結成したのです。

経験ゼロからのスタート

とはいえ、欠田さん自身も演劇経験はゼロでしたが、当時の気持ちを次のように語っています。

欠田:
素人でしたが、それでも「全身で人の話を聞き、返す姿勢は経験ゼロの自分にもできるはず」と信じて挑戦しました。

自分、そしてプレイバックシアターの可能性を信じていたことが、大きな原動力でした。

劇団365のメンバーは、もともとはママ友や知人たち。今では強い信頼で結ばれた大切な仲間だそうです。

現在、劇団365は丸亀市の市民交流活動センター「マルタス」で毎月第3水曜の夜に「心が軽くなるワークショップ」を開催しています(参加は無料、予約も不要)。

欠田:
自分には安心して話せる場所がある」と思ってもらいたいですね。劇団365は、心の安心・安全な場所として存在していきたいです。

岡山県でも劇団365の活動が広がり、地域を越えて「安心して語れる場」が育ちつつあります。

欠田:
プレイバックシアターが好評なのは、ただ「観る」だけでなく、語り・聞き・共有する体験そのものが人の心を癒すからだと思います。お母さんだけでなく、誰にとっても「自分の声が受け止められる体験」は大きな救いになるはずです。

「お母さんの心の健康が家庭の土台になる」と欠田さんは語ります。

欠田:
安心して話せる場所があると思えるだけで、子育ても人間関係もずっと楽になるはずです。劇団365は、私が孤独な育児の最中に求めていた答えの一つです。

コニュニケーションの一つの場所として存在すること。それが劇団365の目指すところです。

今後は対象を広げ、より多くの人にプレイバックシアターを体験してもらいたいと考えています。

まとめ

欠田さんと劇団365の挑戦は「本音を言える場が人を救う」という大切な気づきを地域に根付かせる試みだともいえます。

私たちが安心して言葉を交わせる場は、思っている以上に人生を豊かにしてくれるのかもしれません。

劇団365は丸亀近辺で自主公演などを開催しています。おもしろそうだなと思ったら、ぜひ公式サイトをご確認ください。