本音を話せる場所を目指してープレイバックシアター劇団365の軌跡

執筆者:たびましこ

「本音を言える場をつくりたい」という揺るぎない思いから結成された「プレイバックシアター劇団365」。プレイバックシアターは参加者の話を元に即興劇として再現されるもので、話す内容は日々の悩みでも良し、頭に思い浮かんだことなど、自由に語られる場とされている。

プレイバックシアター劇団365によるワークショップの様子

プレイバックシアターを通して、子育て世代のお母さんが本音が話せる、安心して聞いてもらえる場所を作りたい。心のゆとりがあれば家庭の調和にも繋がると信じ、日々活動されています。

劇団を立ち上げてから約8年、現在は丸亀市市民交流活動センター「マルタス」で毎月第3水曜日(18時〜20時30分)に「心が軽くなるワークショップ」を無料で開催しています。香川県だけなく岡山県でもワークショップを開催し活動の場を広げられています。

南部すくすくスクエア(宇多津町)で自主公演したときの写真

活動の原点はお母さん世代であったが、現在は対象を広げて、実際に参加される方は老若男女、その幅は様々だそう。

プレイバックシアター劇団365 代表の欠田美奈子さんに、プレイバックシアターの魅力劇団を立ち上げたきっかけ(実は演劇経験ゼロだった!)、今後の目標などお話しを伺いました。

代表の欠田さんは4人のお子さんをもつママ。子育てと劇団を両立する姿はパワフルそのもの。

プレイバックシアターとは?

プレイバックシアターは1975年アメリカでジョナサン・フォックス氏により発祥したもので、多くの人の心に響き魅了され、今では世界28か国、80近くの国で開催されています。日本でもプレイバックシアターが公開されると反響を呼び、1998年にはスクールオブプレイバックシアター(体系立てた学びとリーダー育成)が開講されました。このスクールの現校長を務める宗像佳代さんが所属する「劇団プレイバッカーズ」はこう説明しています。

「参加者の実話を劇として再現する、つまりプレイバックするということ。観客(参加者)の誰かがテラー(自分の体験を語る人)となりコンダクター(司会進行、話を聞き出す人)の横に座って、自分自身に起こったこと、過去の記憶、などをその場にいる人全員に紹介します。テラーが話し終えると、アクター(劇を演じる役者達)がそのストーリー(話の内容)を瞬時に一篇の感動的な舞台劇にするのです。(劇団プレイバッカーズのHPより)」

つまり、台本はなく、テラー(自分の体験を語る人)の話に基づいて、役者が即興でストーリーを劇にする。

テラーが語る内容はなんでもいい。日々の悩み、日常の些細なこと、過去の思い出、ふと思い出したこと…内容の幅に制限はない。そして、劇が終わった後、その場にいる全員がテラーの語りに批判・評価などしない、そのストーリーに傾聴しお互いの語りを共有するというもの。

ではプレイバックシアターはただのお芝居を観るもの?というとそうではなく、トラウマ体験の克服を目的としたセラピーとも違うという。

言葉では表現しにくいですが、想像以上に、語り手一人一人のストーリーには力がある。実際にプレイバックシアターを体験してみて腑に落ちることが多い」と欠田さんは言います。

初めてみたときの衝撃と学び

欠田さんがプレイバックシアターを初めてみたのは、香川県に「劇団プレイバッカーズ」さんが公演しにきた時のことでした。

初めてプレイバックシアターを観た時、「一番は胸が熱くなった感じ。目も熱くなり胸がブルブルっと震えました。」と衝撃を受けたそう。演技や演出など技術力に感動しただけでなく、言葉では伝わらないその時の空気感や当事者の気持ちがドンって立体的に伝わってきたと、その感動に心を打たれたのだという。

特に印象的で忘れられないエピソードというのが、

「子どもの頃、ある夏の日(テラーの方が)寝ているとき、おばあちゃんがうちわであおいでくれた」というストーリーの即興劇。その時感じたのが「自分は当事者でないのに、心のどこかにその感覚があり、心の琴線にふれるものがあった」と。

もしかしたら欠田さんの記憶の中で、片隅に置かれた似たような体験が自己投影された、または大切にされて嬉しかったなという気持ちが再び心に蘇ったのかもしれない。

欠田さんのいう「立体的に伝わる」というのは、言葉のもつ力以上に感情に届くものであり、あぁいいな~、わかるな~と受け止められることと同義なのかもしれない、とお話を伺ってより興味深くなりました。

テラー当事者の視点で共感することもあるし、登場人物の(子どもや夫など)どの立場で聞くかで感じ方も違ってくるので、新たな気付きや学びがあるんだとか。

欠田さん自身が体験し、そこから感動や学びががあったからこそ、どんな些細な話でももっている力があるんだ!と確信したのだそう。話す内容はこんな劇的な事故にあった!こんなドラマティックなことがあった!である必要はない。日常の“些細なこと”や“わざわざ言葉にする必要がない”ような「語られなかった声」に傾聴することが大切なのだと。

道徳の本みたいにこの話を聞いてこう感じましょうとか、教訓は何ですか?と議論することもなければ、ジャッジもない。それぞれの人が何か感じてもいいし、感じなくてもいい。だからこそこそ、安心して話しができる。」と欠田さんはプレイバックシアターの魅力を語っていました。

自身がテラー(語り手)になったときの話

聴く側としての体験のお話しを伺ってきましたが、欠田さん自身がテラー(自分の体験を語る人)として体験した時も衝撃的だったそうです。

劇が終わった後、役者の方々や音楽担当の方など劇団員全員が欠田さんの目を見て、「あなたの大事な 預かったお話を、お返しします。」と敬意を示してくれたその姿に「この方たちは私のために全身全霊で私の話を聞いてくれたんだ、なんて贅沢な時間だったんだろう」と心を揺さぶられ感動したのだそう。

確かに、日常生活の中で誰かが全身全霊で話を聞いてくれて、全員が自分を受け止めてくれたという経験はなかなかないもの。“贅沢な時間を過ごせた”と感じるのも納得できますよね。

こうして衝撃的なプレイバックシアターとの出会いを果たしますが、それからまさか自身がプレイバックシアターの劇団を立ち上げることになるとは!

何が大きく彼女を突き動かし、原動力となったのでしょうか?

ただ一つの動機

欠田さんの活動の原点は、「子育て中のお母さんが安心して本音が言える場所を作りたい」という強い思いがあったからでした。

その発端は、ご自身が産後、お子さんが0歳児の時に直面した精神的な辛さにありました。ご主人の仕事上転勤が多く、家族や友人が近くにいない環境でしたが、育児や家事が思い通りにいかないことや子どもの夜泣きで寝れないことが辛かったのではない。自分の本音を言える場所がないことが一番苦しかった、と欠田さんは当時を振り返っていました。

「夫や友人に聞いてもらいたいけど、言うまでもないことだったり、微妙なグラデーションの気持ちだったりを言葉に出せない」これらの感情が心のコップにどんどん溢れ出し、焦燥感や孤独感で自分らしさを見失う瞬間もあったのだという。

パンパンになった気持ちを下せる場所があったらいいのに…と。

だからこそお母さんのために本音が言える、安心して話せるを場所を自分が作ろう!という思いに至り、自らが立ち上がった。ないなら自分が作るという発想の転換とその行動力から、欠田さんの本来のお人柄や熱い情熱の持ち主であることが分かります。

そんな中、プレイバックシアターと出会い、プレイバックシアターの日本校の校長の宗像さんから

当事者が当事者のために、お母さんがお母さんのためにしてあげるのが 1 番届くよ」という言葉に背中を押された。

「母、妻、一人の女性としての経験がある私達がプレイバックシアターをすることで、子育て世代のお母さんが安心して気持ちを話せるのはないか」

こうして欠田さんは活動の目的(お母さんのための場所を作ること)とそのためのツール(プレイバックシアター)が見事にマッチングしたのである

演技経験ゼロでも、見えた可能性

とはいえ、欠田さんはこれまで演劇に興味もなければ、お芝居の経験はゼロ!本当に自分にできるのか?と疑念と不安はあったが・・・

あなたのために私達は全身でお話を聞き、受け止めます。あなたのためにステージに立ち一生懸命やりきります。その姿勢の力ってすごいなっと思ったから、経験ゼロの私にもそれはできるのではないか」と。

自分自身とプレイバックシアター可能性を信じていたことが大きな原動力であったと窺えます。

そして欠田さんと同じくお母さんのための場所を作りたいと願い、プレイバックシアターの理念に共鳴した同志も集まったことから、プレイバックシアター劇団365が結成されたのです。

メンバーはもともとママ友や知人だったそう。今では大切な仲間に。(欠田さん : 写真右端)

これまでの彼女の歴史には一貫性があった

経験ゼロでも実践しよう!私がお母さん世代のために立ち上がる!と動いた情熱の裏には、実に面白いほどの一貫した共通の動機がありました。それは欠田さんのこれまでの職歴やご経験に深く関わっていました。

大学進学を控えた高校時代、美術の先生を志し美大を目指していたが、心理カウンセラーになりたいと急遽進路変更。大学では心理学を専攻し、在学中にカナダへ留学。現地では留学サポートのお仕事にも従事。大学卒業後は、なんとウエディングプランナーとして活躍していたのだそう!

職歴は多岐にわたりますが、全てに共通して「誰かのために本音を安心して話せる場所、人でありたい」という願いが、実は根底に繋がっていたのです。

もともと人の話を聞いたり、自分の話をしたりコミュニケーションが根っから好きなんだ、と。在学中にバックパッカーとして海外へ飛び回り、異国で出会う人々と交流を楽しんでいたようです。

これからの目標

最後に、プレイバックシアター劇団365が目指す未来や目標を伺いました。

お母さんの心の健康が家庭の土台となると信じていているからこそ、お母さん達が心のゆとりをもって生活できるよう「“自分には安心して話せる場所がある”と思ってもらいたい。劇団365は心の安心・安全な場所として存在していきたい」と欠田さんは語ります。

何かあればあそこに行こう。今回は参加できないが次回があるから大丈夫。何を話しても否定されないし聞いてくれる・・・

こうした感情が人々の心の支えとなり、コニュニケーションの一つの場所として存在すること。それがプレイバックシアター劇団365の目指す未来なのだと。

活動の原点は“お母さんのために”であるけれど、対象者はプレイバックシアターに興味を持った方にもっと知ってもらいたい、体験してもらいたいと話していました。

今後の予定として、2025年11月16日(日)14時から南部すくすくスクエアにて自主公演を開催することが決まっています!平日のワークショプへ参加ができない方もご安心を。この機会にぜひ足を運ばれてみてはいかがでしょうか。

(1)「心が軽くなるワークショップ」
開催日時:毎月第3水曜夜18時から 場所:マルタス 参加無料、当日参加OK
(2)自主公演「テーマ “道” 」
開催日時:11月16日(日)14時開演 場所:南部すくすくスクエア(宇多津町)  
※上記共にお申し込みはこちら:https://gekidan365.hp.peraichi.com

まとめ

今回、初めてプレイバックシアターを知り、欠田さんの体験談を聞いているとぐっと胸に響くものがありました。「わざわざ言葉にするまでもない声」を誰かに語ることなく自分の中で消化したり、「自分の気持ちはわかってもらえない」と歯痒く思ったりしている。こうした感情を閉じ込めていくうちに、もしかしたら本来の自分らしさや欲求・感情といったものを狭めているのかもしれない。

プレイバックシアターを通して忘れていた感情や、大切にしてきたものを気付かせてくれたり、自分らしさを取り戻すきっかけにもなるのかも?と、欠田さんのお話しを聞いていて感じました。そして、その場にいる全員と個人の物語を一切の評価や否定なく共有できることの安心感を得てみたい。

何かの気付きや学びがあるし、どんな些細な話にも持っている力がある」と欠田さんの力強いメッセージに、私もプレイバックシアターにぜひ参加したい!と心を動かされました。

どんな感情が湧き上がってくるのか?何を思うのか?

そんなことを思わせる魅力があるのも、プレイバックシアターの良さなのかもしれない。

たびましこが執筆した記事の一覧はこちらになります。

  1. たびましこのプロフィール
  2. 【訂正前】丸亀の和食処といえば「弁慶」で本格的なコース料理を実食。「美味しいが止まらない」
  3. 丸亀市で和食ならここ!新鮮な海鮮と旬の素材を活かしたお料理は絶品満足「おごっつぉ処 弁慶」
  4. 一度遠ざかった趣味「歴史と着物」 今ふたたび動き出す。再燃のきっかけと新しい日々【麻讃さんインタビュー】
  5. この記事本音を話せる場所を目指してープレイバックシアター劇団365の軌跡
ABOUT US
アバター画像
たびましこ